投稿・コラム

投稿日:2023年10月05日
/ 更新日:2023年10月05日

はじめに

 近年では、法律事務所においても交通事故に遭われた外国人の方からのお問い合わせが増えております。
 自身が外国人であるため、賠償金などの点で不利に扱われていないか加害者から提示された示談金は適正なのかなどといった不安を抱えてご相談に来る方が多いという印象です。 

 外国人であることを理由に、日本人や他の在留外国人より賠償額や対応の点で、不利に扱われるといったことは少ないと思われますが、外国人であるために、相手や保険会社とのやり取りの場面で、十分なコミュニケーションがとれず、その結果、思うような補償が受けられない、といった事実上の不利益を受ける可能性はあり得ます。  

 本稿では、このような在留外国人特有の交通事故に伴う問題点や在留外国人の方のための事故後の適切な対応などについてご紹介致します。

日本で交通事故に遭った場合の適用法令

裁判管轄

 日本に滞在中の外国人の方が、日本国内で交通事故に遭った場合には、不法行為地である日本の裁判所に国際裁判管轄があります(民事訴訟法3条の3第8号)。

準拠法

 準拠法とは、簡単にいうと、日本に滞在中の外国人の方が被害者となった交通事故に関する争いについて適用される法令のことをいいます。
 準拠法については、法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます)が定めており、不法行為の準拠法は、原則として結果発生地とされています(通則法17条)。
 交通事故において結果発生地とは、事故発生地と同義と考えられており、日本で起きた交通事故の場合には、日本の法令(通常は民法)が適用されることとなります。

 なお、死亡事故などにより相続が発生した場合には、被相続人の本国地法によるとされているため(通則法36条)注意が必要です。

損害賠償の内容

 在留外国人の方の場合も、国内にすむ日本人と同じように、治療費通院交通費付添費休業損害傷害慰謝料後遺障害が認められた場合の逸失利益などが認められることとなります。
 自賠責の支払基準は、その適用において特に在留外国人を除外していないので、所得水準や生活水準の低い国の被害者である場合には、自賠責保険から支払われる保険金だけで損害が回復される場合もあります。
 もっとも、在留外国人の方は、以下の点について注意が必要です。

治療の終了時期

 治療費や通院交通費は、実際に入院や通院先で治療を受けた場合に要した費用であり、これらは、通勤災害などの労災事案でない限り、通常、治療終了時まで加害者又は加害者が加入している保険会社が支払うこととなります。
 
 もっとも、保険会社は営利企業であり、治療の終了を割と早い段階で連絡してきます。
 頸椎捻挫や腰椎捻挫など比較的軽傷の事故の場合であれば、(体感ですが)3か月前後で、治療終了と判断して治療費の支払いを拒んできます。
 本来、治療終了の時期は、主治医が判断することですが、保険会社は、被害者の通院先に対して自社に都合の良い医療照会を行い、また自社に都合のよい解釈を行って治療の終了時期を判断してきます。

 この保険会社の対応は、事故の被害者が日本人であっても同じですが、日本人であれば、治療継続の必要性を直接または弁護士などの代理人を通して比較的容易に訴えることができます。ですが、在留外国人の方は、日本語が満足に話せない等の理由から、日本人以上に治療継続や慰謝料増額の交渉が十分にできないなどの不利益を受けることがあります。
 同様に、休業損害や傷害慰謝料などの損害についても、十分な交渉ができず、本来受けるべき賠償額を受けられない可能性もあります。

外国での治療費

 治療費は、交通事故による損害と相当因果関係(社会通念上、行為と結果との間に「あれなければこれなし」という条件関係)がある場合に損害賠償の内容として認められるものです。
 
 では、外国人であれば、母国へ一時帰国、または帰国することが想定されますが、外国での通院による治療費については、損害賠償の内容として認められるのでしょうか。結論からいえば、先に説明したように、交通事故との間に相当因果関係があることが認められれば、損害賠償の内容として加害者や加害者加入の保険会社から支払われることとなります。
 
 ただし、外国での治療が、医学的見地から必要性相当性が認められ、かつその費用の額が妥当なものと認められる場合に限られることとなります。そのため、日本では医学的に承認されない治療方法であったり、外国での治療費が高額であった場合には、治療費が支払われない、又は一部しか支払われないといった結果になる可能性があります。

外国への渡航費

 上記の通り、通院交通費は、損害賠償の内容とされています。通院交通費も交通事故と相当因果関係のある損害といえるからです。
 
 では、帰国して母国で治療を受ける場合、外国への渡航費も損害賠償の内容として認められるのでしょうか。
 この点も先に治療費の場合と同じように、帰国して治療を受けることと交通事故との間に相当因果関係があるといえるかにより判断されることとなります。
 
 つまり、帰国して治療を受けることの必要性、相当性が認められることが必要となります。
 この必要性、相当性については、日本語能力の有無、程度や日本語能力がない場合の通訳者家族の有無日本への定着度などを考慮要素として判断されることとなります。
 
 同様に、外国人被害者の遺族の渡航費についても相当因果関係がある場合には(通常あるでしょうが)損害賠償の内容として認められることとなります。

逸失利益

 逸失利益とは、交通事故による損害がなければ将来得ることのできた利益のことをいいますが、在留外国人の逸失利益は、被害者となった外国人が日本においてどの程度就労可能なのか、すなわち、金銭的に請求するだけの収入を得る蓋然性在留期間に日本で収入を得る蓋然性などから判断されることとなります。

 判例においても、労災事案となりますが、短期在留外国人が在留期間経過後も残留して就労中に重傷をおった事案で「…こうした逸失利益算定の方法については、被害者が日本人であると否とによって異なるべき理由はない
 したがって、一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するに当たっては、当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するかその後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか、などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し、将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる。
 そうすると、予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができる。そして、我が国における就労可能期間は、来日目的事故の時点における本人の意思在留資格の有無在留資格の内容在留期間在留期間更新の実績及び蓋然性就労資格の有無就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である。」としています(最三小判平9.1.28民集51.1.78)。 

交通事故のご相談は福岡の「いかり法律事務所」へ

 外国人の方の中には、交通事故に遭われ、相手の保険会社から治療の打ち切りを連絡されたけれど、どうしたらいいのか分からない、又はそういうものなのかと考えてしまい、結果として十分な治療を受けられずに困っている方もいらっしゃると思います。また、賠償額の提示があったけれども、相当な高額だったため、これが妥当な金額なのだろうと考えてしまう方もいるかもしれません。

 ですが、これらの悩みや不安は、弁護士に相談することで解決できるケースが多くあります。弁護士に依頼することにより、治療期間が延長できたり、予め提示された賠償額より大幅な増額が期待できるからです。
 外国人の方も交通事故に遭われた場合には、たとえ日本語がよく分からなくても、日本語の分かる知人を伴うなどして、一度弁護士に相談してみることを検討してみるべきだと思います。

 福岡の弁護士法人いかり法律事務所には交通事故に詳しい弁護士が多数在籍しています。日本語がうまく話せない方は、日本語を話せる方と一緒にご来所いただき、ご相談を受けることができますので、福岡で交通事故に強い弁護士をお探しの方は、ぜひ福岡の弁護士法人「いかり法律事務所」へお気軽にご相談下さい。
 なお、当法律事務所では、日本語のみでのご相談対応となっておりますので、予めご了承頂きますようお願い致します。