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投稿日:2023年10月05日
/ 更新日:2023年10月06日

高次脳機能障害とは

 高次脳機能障害とは、交通事故による頭部外傷によって、意識障害の被害を受け、治療の結果、意識が回復したものの、「意識回復後」に記憶障害・判断力低下などの認知障害や感情易変・被害妄想などの人格変性が生じる後遺障害のことをいいます。

 高次脳機能障害は、治療の結果、CTやMRIなどの画像では脳の外傷が確認できず、かつ被害者自身も治療が終了していると考えているため、自覚症状がなく、家族など普段より被害者に親しい関係にある人でないと、その認知障害や人格変性など症状に気付きにくいという特徴があります。

 本稿では、交通事故に詳しい福岡の弁護士が、交通事故による高次脳機能障害の自賠責の判断基準、後遺障害等級評価についての考え方、被害者への対応などについて解説致します。

高次脳機能障害の判断基準

 高次脳機能障害は、平成13年1月に、損害保険料率算出機構(当時の自動車保険料率算定会)が判断基準を示し、後遺障害として認められることとなりました。自賠責保険による判断基準は、画像検査結果の存在意識障害からの回復意識回復後の異常行動3つの基準を満たすことが必要とされています。

画像検査結果がある

 CTやMRIなどによる継続的観察により、脳出血や脳挫傷痕など脳の受傷を裏付ける画像の検査結果があることが必要となります。
 CTやMRIなどにより、脳室の拡大や脳全体の萎縮など何らかの変性が確認されることが必要になるということです。

一定期間の意識障害

 頭部外傷により、半昏睡から昏睡状態で開眼・応答しない状態が6時間以上継続、または健忘症あるいは軽度意識障害が少なくとも1週間以上続くことが必要(一応の目安)とされています。

意識回復後の異常行動

 意識回復後、記憶力障害、判断力・集中力低下などの認知障害や感情易変、不機嫌・攻撃性の表出、被害妄想などの人格変性が現れていることが必要とされています。

高次脳機能障害の後遺障害評価

高次脳機能障害の等級認定にあたっての基本的な考え方

 高次脳機能障害の後遺障害等級認定は、自賠責保険の定めた1級2級3級5級7級9級の区分のうち、いずれかが認定される可能性があります。高次脳機能障害の後遺障害の等級認定に当たっては、下表の脳外傷による高次脳機能障害の障害認定基準に加えて、同表の補足的な考え方も認定のための目安とされます。

障害認定基準補足的な考え方
1級3号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
2級3号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。
身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
3級3号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。
また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。
しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
5級2号神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。
ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
7級4号神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどから一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級10号神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

等級認定のポイント

 自賠責保険の高次脳機能障害は、脳の器質的損傷(脳への外傷のことです)によるものであり、脳への外傷が確認できない場合には、非器質性の精神障害に関する等級認定が行われることとなります。
 脳への外傷があるか(器質的損傷か非器質的損傷か)、障害の内容・程度はどのようなものか、の2段階に分けて等級を判断することになります。

軽度外傷性脳損傷との関係

軽度外傷性脳損傷とは

 軽度外傷性脳損傷(以下「MTBI」といいます)とは、頭部外傷による脳機能への影響のうち脳震盪よりも重度なものをいい、必ずしも脳の器質的損傷を伴わない外傷性脳機能疾患のことをいいます。
 MTBIの特徴として、画像上、脳室の拡大や脳の萎縮が確認できず意識障害もごく短時間とされる点が挙げられます。

高次脳機能障害として認定されるか

 CTやMRIなどの画像上、脳の損傷を確認できる有意な画像所見もなく、事故後の意識障害がごく短時間で、かつ認知障害人格変性があった場合にも、高次脳機能障害として後遺障害の認定が可能かが問題となることがあります。
 
 この点、自賠責保険ではMTBIとされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害と評価することは適切ではないが、頭部への外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定できないとして、高次脳機能障害の判断には症状の経過、検査所見等も併せて慎重な検討が必要と判断しています。

高次脳機能障害の認定における問題点

 高次脳機能障害の認定に際する問題には、脳の損傷の程度や障害の程度などさまざまな問題点がありますが、交通事故の法律実務において、特に問題となるのは、事故との因果関係が挙げられます。
 高次脳機能障害と同じような人格変化や認知障害は、加齢や他の疾患などによっても表れることがありますし、また、高次脳機能障害は、治療期間を経て外傷が治り、加療によっても治らない症状が後遺障害として残存するという経緯を経て発症する傾向にあります。
 
 とりわけ、事故後、日常生活に戻って数か月後に症状が発現した場合には、他の疾患によって発症・増悪した可能性もでてくるため、他の疾患との識別という点で、事故との因果関係が問題となるといえます。
 法律実務においても、交通事故と上記症状との因果関係が争われる傾向にあり、医証や発症時期との関係から、因果関係を認定した上で、素因減額(「素因減額」とは、既往症など事故とは異なる要因による一定の症状のために賠償額を減額することをいいます)による割合的解決を行った裁判例もあります(神戸地判H23.5.16交民44.3.588)。

被害者への対応

周囲の協力が必要

 被害者への対応としては、先にも述べたように、被害者本人に治療は終了したと考えて後遺症について自覚がないことがあります。
 ですが、一見治ったように見えても(頭部の外傷は治っても)、認知障害や人格変性などが表れ、高次脳機能障害を発症している可能性があるので、家族など周囲の方は注意しておく必要があります。

「看視」が必要な場合も

 看視とは、被害者に異常行動が生じていないか、人間関係が円滑かどうか、仕事のやり方に変化がないか注意深く見守ることをいいます。
 自賠責保険上は、2級に該当する場合しか「看視」を認めていませんが、高次脳機能障害の場合は、3級以下の場合でも、症状によっては、家族による外出の際の付き添いなど看視が必要な場合もあることに注意しなければなりません。

交通事故のご相談は弁護士法人いかり法律事務所へ

 高次脳機能障害のような重大な後遺障害事案にあたっては、専門医の高度の知見や判断が不可欠です。そのため、交通事故による高次脳機能障害の後遺障害事案のご相談は、交通事故に詳しいだけでなく、専門医と連携して迅速に対応できる弁護士や法律事務所であることが必要です。

 福岡の弁護士法人いかり法律事務所は、顧問医や協力医を有する福岡の医療調査会社と常時連携しながら後遺障害事案にあたっており、実際にも多数の後遺障害等級の認定を獲得しています。高次脳機能障害をはじめ、福岡の交通事故や後遺障害事案についての弁護士へのご相談・ご依頼は、福岡の交通事故に詳しい弁護士法人いかり法律事務所へご相談下さい。