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福岡市の交通事故相談に強い弁護士事務所
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投稿日:2023年05月12日
/ 更新日:2023年09月29日
目次
法律事務所においても、通勤中の交通事故に関するご相談が多くあります。
通勤中の交通事故である場合、そのほとんどは労災保険法が適用される労災事故となります。
「ロウサイ」という言葉はよく耳にしますが、労災事故と扱われるとどのような効果があるのか、人事・労務担当者のように労働保険や社会保険を日常業務として扱っている場合を除いて上手く説明できる人はそう多くはありません。
本稿では、通勤災害による労災保険の仕組みとその主要な効果についてご紹介致します。
通勤災害とは、通勤によって労働者が被った負傷、疾病、障害又は死亡(傷病等)のことをいいます。
この場合の「通勤」とは、就業に関し、
1.住居と就業場所との間の往復
2.単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
3.就業場所から他の就業場所への移動
を合理的な経路及び方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。
自宅から勤務先への又は勤務先から自宅へ通勤中の交通事故は、就業に関する住居と就業場所との間の往復行為にあたるので(上記①)、通勤中の交通事故は基本的にすべて「通勤災害」にあたります。
通勤中の交通事故は、基本的にすべて「通勤災害」にあたり、労災保険の適用がありますが、以下の場合には「通勤災害」にあたりません。
また、通勤災害にあたるとしても労災保険からの各保険給付金の支給が制限される場合があります。
通勤災害は、「労働者」が通勤中に被った傷病等のことをいうため、そもそも「労働者」に当たらない場合は、通勤中に交通事故に遭っても通勤災害には当たりません。
労災保険法が適用される「労働者」は、労基法上の「労働者」と同じように、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」のことをいいます(労基法第9条)。 労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。
通勤中の交通事故でこの労働者性が問題となるのは、交通事故に遭った当事者が個人事業主などであった場合です。
最近では、運送業者や業務委託により事業を行う方たちが増加していますが、個人事業主は、「使用される」者には当たらないため、原則として「労働者」には当たらず、労使保険も適用されません。
ただし、原則として労災保険の適用されない上記個人事業主なども、労働保険事務組合に労働保険事務の委託を行うなどして労災保険に特別加入すれば、労度保険の適用を受けることが可能となります。
通勤中の交通事故であっても、業務の性質を有する場合には、通勤災害には当たりません。
たとえば、出張など勤務先の命令で、自宅から他の場所への移動中に交通事故にあった場合などがありますが、業務の性質を有する場合には、通勤災害ではなく、業務災害として扱われるからです。
この場合は、業務災害として扱われるので、労災保険の適用が認められます。
通勤の途中で逸脱または中断があると、その後は原則として通勤とはなりません。
もっとも、日常生活上必要な行為(日用品の購入や親族の介護など)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び「通勤」となります。
そのため、通勤が中断しても、その後、通勤に当たるといえる場合には、通勤災害により労災保険の適用が認められます。
被災者が故意に交通事故を発生させた場合は、労災保険の適用があるとしても、各保険給付金の支給は行われません(労災保険法12条の2の2第1項)。
また、故意の犯罪行為若しくは重大な過失により交通事故を発生させた場合は、各保険給付の支給が全部又は一部制限されます。このような被災者を救済する必要性が乏しいからです。
通勤中の交通事故により、通勤災害として労災申請をするメリットは、以下の点などが挙げられます。
労災事故の場合、政府が労災保険により治療費を負担するので、被災者は自己負担がありません。
労災事故でなければ健康保険や国民健康保険、後期高齢者医療保険など自己負担のあるところ、労災事故の場合、治療費の負担を心配することなく加療に専念できる点が大きなメリットといえます。
労災事故の場合、自己負担がないだけでなく、それ以上の治療の効果が期待できないとされる治療終了時(これを「症状固定」といいます)まで治療を受けられる点も大きなメリットといえます。
通勤中の交通事故により被災した場合、交通事故当事者が加入している保険会社(主に相手の保険会社)が治療費を支払ってくれますが、保険会社も営利目的で事業を行っているため、怪我や事故の状況にもよりますが、凡そ約3~6カ月程度と割と早い段階で治療終了(治療打ち切り)の話を持ち掛けてきます。
相手の保険会社により治療終了と判断されると、その後の治療費は自己負担となるため、労災事故として通院した方がメリットが大きいといえます。
労災保険には療養(補償)等給付や休業(補償)等給付、障害(補償)等給付など多くの保険給付が用意されています。
「補償」が付くのは業務災害の場合で、「補償」が付かないのは通勤災害の場合となります。本稿では、通勤災害について解説していますので、以下「補償」を省略しております。
被災後の状況により受給できる保険給付は異なりますが、これら各保険給付を退職後も治療終了まで受給できる点もメリットとして挙げられます。また、療養等給付や介護等給付など一部の保険給付を除き、併給調整を受けない特別支給金を受給できる点もメリットといえます。
たとえば、労災保険を使わず、休業損害を保険会社から補填して貰う場合、支給期限は保険会社が治療終了と判断した時点までとなりますし、支給日額もシビア(低い金額)に判断されるうえ、支給日も実際に欠勤した労働日数に限るなどして算定されるため、受け取る金額は想定よりも少額となる傾向にあります。
一方、労災保険を利用し、休業等給付を受け取る場合、休業給付のほか特別支給金も受給できるため、凡そ平均日額の80%相当額を受給することができます。また、休業等給付及び特別支給金の受給後も、相手の加入している保険会社に対して給付基礎日額より休業等給付金のみ控除した差額40%分を別途請求することができます(特別支給金とは併給調整されません)。
また、労災保険の保険給付金は所定休日や法定休日についても支給されます。そのため、労災保険を利用した場合の方が、労災保険を利用しない場合と比較して、最終的には、多くの休業補償が受けられることとなります。
このように、労災保険を利用した方が、支給額や支給日数などの点から補償が厚く、メリットが大きいものといえます。
通勤中に交通事故にあった場合には、労災保険指定病院への入通院を検討することが大切です。
もっとも、交通事故の状況によっては、最寄りの病院に救急搬送されることとなりますが、搬送先が労災保険指定外の病院であることもあります。後述のとおり、通勤災害の交通事故であれば、労災保険指定病院で治療を受ける方が多くのメリットが受けられるので、可能であれば労災保険指定病院への転院、治療を検討してみることをおすすめします。
言うまでもありませんが、被災者にとって加療に最も適した病院であることが最重要ですので、労災保険指定病院への転院が不可欠という訳ではないことに留意して下さい。
労災保険指定病院(正確には「労災保険指定医療機関」といいます)とは、労災保険を利用した労災の治療に対応する医療機関のことをいいます。この労災保険の指定は、病院からの申請を受けて各都道府県の労働局長が行うことになります。
労災保険指定病院で治療を受けるメリットは、労災事故であれば、治療費の窓口負担が0円となり自己負担がない点や、各保険給付のための労災申請手続きが容易になるなどのメリットが挙げられます。
労災保険指定外の病院での治療費なども、交通事故の当事者が加入している保険会社により支払いを受けることがありますが、治療終了として保険会社の都合により治療費の支払いが打ち切られた場合には、その後の治療費は健康保険などを利用して被災者が立替払いをしなければならなくなります。
また労災申請書類には入通院先病院の証明が必要となりますが、労災保険指定病院であれば、同書類を提出すれば必要な証明を行ってくれるため、手続きがスムーズに進みます。
福岡県の労災保険指定病院は下記の通りとなりますので、ご確認下さい。
通勤災害により労災保険を利用する場合は、入通院開始時から労災保険を利用することを勤務先や入通院先、場合によっては相手の加入する保険会社にも伝えておくべきです。
入通院開始時には健康保険を利用しておきながら、治療途中で労災保険の利用に切り替えることは容易ではなく、入通院先の協力が不可欠となります。途中で労災保険の利用に切り替えることは、入通院先にとって診療報酬の請求先の変更など煩瑣な手続きが必要となるなど大きな負担となるため、上記切り替えに対してとても消極的になります。
また病院によっては、労災保険への切り替えができない場合もあり、その場合には、病院に対して一時的に治療費の全額(10割)を自己負担した上で労災保険を請求することになります。一時的とはいえ、休業中で収入源が途絶えているような状況下にある場合には、被災者にとって非常に大きな負担となってしまいます。
実際、労災事故が疑われる場合には、通院先の病院側から健康保険の利用による受診ではなく、労災保険利用による受診をすすめられます。そもそも健康保険は「業務(又は通勤)外の」事由により被った傷病等に対して適用される保険だからです。
労災保険の利用には、通院先の協力が必要となりますので、病院側に迷惑をかけないような対応が必要です。
通勤中の交通事故であることが明らかであるにもかかわらず、通勤災害による労災事故として対応することに勤務先が消極的なケースがあります。労働者が労災保険を利用することにより、事業者が不利益を受けることは少ないはずですが(労働保険料が低くなるメリット制の特例を受けられない等)、事業主の証明を得られないため、労災申請が滞ってしまうと被災者は労災保険による保険給付の受給が非常に遅れるという不利益を受けることになります。
このような場合には、被災者は、事業主の証明を得ることなく、直接労基署に労災申請をすることができますので、事業主の協力が得られない場合には、被災者ご自身で労災申請をすればよいということになります。
なお、事業主には、労働者が被災した場合には、労災申請に協力する義務が法定されています(労災保険法施行規則第23条1項、2項)。事業主にの方には、是非とも従業員の労災申請に協力してあげて欲しいものです。
本稿では、通勤中の交通事故が通勤災害に当たる場合の対応や留意事項についてご紹介致しました。
一般的に通勤中の交通事故が労災事故に当たることは知っていても、労災となる場合に勤務先や通院先などに対してどのような対応をすればよいか十分に理解している方はそう多くありません。勤務先の人事・労務担当者などからの説明や案内が不十分であるケースもあります。
本稿でも述べたように、労災事故は初動が非常に重要となります。通勤災害をはじめ労災事故について少しでも気になることがあれば、まずは労災事故に詳しい弁護士などの専門家に相談してみることが大切です。
弁護士法人いかり法律事務所には、労災事故に鬼のように強い弁護士が多数在籍しています。労災事故について少しでも気になることがあれば、労災事故に強い福岡の法律事務所、弁護士法人いかり法律事務所へご相談下さい。