投稿・コラム

投稿日:2022年03月08日
/ 更新日:2023年10月06日

交通事故によって車両・バイクを損傷した際に問題となるカスタム加工・改造部分の損害について、解説をしています。物的損害の中でも難しいジャンルになるのですが、記事を参考にして解決の指標にしていただけると嬉しいです。

改造車の特殊性

 車やバイクを所有されている方の中には、費用をかけて特別なカスタム加工をして改造していることがあります。
 改造車は、改造をしていない車と比較して特別な加工がされていることにより、事故に遭った場合にはその分余計に修理費用が掛かったりすることもあります。また、部品代などの費用をかけていることもあり経済的全損の場合の車両価格の算定の考え方が問題になります。

 しかし、改造車の修理費用や車両価格の算定について、裁判実務においてその算定方法について確固たる考え方が固まっているとまでは言えない状況です。保険会社との交渉においても保険会社側の解決事例が多くないと考えられるため、話し合いは難航する傾向にあります。

改造車両の修理費用

参考となる考え方

 改造車両の修理費用について参考になる考え方は、原則として改造車の修理費用は交通事故との相当因果関係のある損害として認めたうえで、

①その改造が道路運送車両法の定める保安基準に反するなど法に抵触するような場合や、
②その改造がその改造内容(具体的には、改造箇所、改造方法、改造程度等)に照らし、ことさらに損害を拡大する場合には、

過失相殺により、例外的にその損害の負担を一定限度減額ないし免責するというものです(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『交通事故による交通事故による損害賠償の諸問題Ⅵ 損害賠償に関する講演録』,124頁参照)。

裁判例 

 この過失相殺の考え方を採用した裁判例として、いわゆる金メッキ判決と呼ばれる東京高裁平成2年8月27日判決があります。この裁判例は、高級車メルセデスベンツに施された金メッキバンパーの修理費用(14万8000円)が争われた事案であり、修理費用と事故との相当因果関係を認めたうえで、「バンパーに金メッキをすることは効用を高めず却って損害を増大させるものである」として過失相殺の法理により金メッキ費用の5割を減額し、修理費用として7万4000円を損害として認定しました。

 このように改造車については、改造の内容や効用性によっては、必ずしも修理費用全額が認められるわけではないという点に留意する必要があります。

改造車両の車両価格の算定

車両価格の原則的考え方

 修理費用よりも車両の時価額の方が高い場合には、いわゆる経済的全損として事故当時の当該事故車両の車両価格(時価額)をもって損害額とされます。経済的全損になった場合の事故当時における車両価格は、特段の事情のない限り、原則としてこれと同一の車種、年式、型式、同程度の使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価格によって定めるべき、と考えられています(最高裁昭和49年4月15日判決参照)。

改造車両の車両価格の考え方

 改造車両については、様々な裁判例が存在しており確固たる考え方があるわけではありませんが、この最高裁の考え方を前提とすると、改造車両においても同様に原則として事故当時の当該事故車両の車両価格を損害額とすべきです。所有者としては改造加工(カスタマイズ)したことにより通常車より価値は高いと言いたいところでしょう。
 
 そのため、改造車両の車両価格がいくらかという争いの本質は、改造によって客観的に市場価値が高まって言えるのかどうかという点にあると言えます。しかし、改造車については、同一車種、年式、型式、使用状況、走行距離等が同一の改造車両があまり存在せず、客観的に市場価値が高まってることの立証は容易ではありません。

裁判例

 様々な裁判例が存在しており、統一的見解がある状況ではありません。 
 改造車両の時価額が問題になった参考裁判例として、大阪地裁平成8年3月22日判決は「(本件改装について)専らカーマニアとしての趣味を充たす目的でなされており、これらによって客観的価値の増加があったとは認められず、車両価格としては購入価格(※300万円)の6割が相当である」として、180万円を認定しました。 

 また、さいたま地裁平成30年12月28日判決は、「原告車両は、パーツを高額なものに取り替えて、美観を高めたカスタム車であるから」「主観的価値はともかくとして、市場における客観的価値がそれによって増加したと認めるに足りる証拠はない。」として原告主張の金額を排斥しました。 

 このように改造車両の車両価格をめぐる問題については立証上の問題もあることから、弁護士に相談することをお勧めいたします。 交通事故に関する問題は、福岡の弁護士法人いかり法律事務所へご相談ください。