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投稿日:2022年04月07日
/ 更新日:2023年10月13日

死亡慰謝料を請求する

そもそも慰謝料とは

 慰謝料とは、精神的損害に対する金銭賠償のことをいいます。死亡による慰謝料は、被害者の年齢や家族構成などその属性により、以下の金額の範囲で決定されます。
 
 たとえば、被害者が、その収入によって世帯の生計を維持している場合(一家の支柱)には、2700万円~3100万円、一家の生計を経済的に支える立場にはないが、一家の支柱と並ぶ重要な地位を占めるなど、一家の支柱に準じる場合には、2400万円~2700万円、独身や被扶養者の立場にあるような場合は2000万円~2500万円の範囲で決定されることになります。
 この基準額は、後述する死亡被害者の近親者固有慰謝料請求もあわせた、死亡被害者一人あたりの合計額となります。

被害者自身の慰謝料

 慰謝料請求権の主体は、被害者本人です。
 被害者が交通事故により死亡した場合、たとえ即死であった場合も被害者本人について精神的損害を被ったことにより生じる損害として慰謝料請求権が発生します(民法709条、710条)。そして、加害者に賠償を請求する意思を表明するなどの格別の行為を要することなく、死亡と同時に相続人に被害者本人の慰謝料請求権が相続されることになります(最判大法廷昭和42年11月1日・民集21巻9号2249頁)。

遺族の慰謝料 

 近親者は、被害者が交通事故により死亡したことについて、固有の慰謝料請求権が認められています(民法711条)。これは、生命を侵害する不法行為は、被害者だけでなく、その近親者に対しても、大切な家族を失ったという多大な精神的苦痛を被らせることから、近親者自身にも固有の慰謝料請求を認めたものです。
 
 ここでいう「近親者」とは、直接には、民法711条に列挙されている被害者の「父母、配偶者及び子」を指していますが、これらに該当しない者であっても、被害者との間にこれらの者と実質的に同視すべき身分関係を有し、被害者の死亡により、甚大な精神的苦痛を受けた者は、民法711条の類推適用により、加害者に対して慰謝料請求を行うことができます。
 具体的には、内縁の配偶者祖父母兄弟姉妹などがこれにあたります(大阪地判平成19年3月29日・交民40巻2号479頁、名古屋地判平成21年7月29日・交民42巻4号945頁)。

外国人の方が被害者となった場合

永住者などの在留資格を有している場合

 「永住者」「日本人の配偶者」「永住者の配偶者」「定住者」「特別永住者」など日本での在留活動に制限がない在留資格がある場合には、日本人と同基準で算定することになります。

滞在が相当程度長期にわたる場合

 たとえば、就労可能な在留資格を有している外国人など、相当程度の滞在が見込まれる外国人については、日本人の場合を基準として、日本における将来の在留期間、日本や本国における就労の可能性や本国の物価水準、所得水準などを考慮して決定されることになります。

短期滞在の場合

 たとえば、就労可能な在留資格を有していない短期滞在の外国人や不法就労者などの外国人については、本国における物価水準や所得水準などを考慮して決定される傾向にあります。そのため、本国の物価水準や所得水準が低い場合には、日本人が被害者となった場合に比べ低めに慰謝料額を算定している裁判例が少なくありません

死亡慰謝料を増額請求する

増額請求ができる場合

 死亡交通事故における損害賠償の実務において、慰謝料の算定にあたっては、さきの「慰謝料を請求する」で挙げた範囲で決定されることが一般的ですが、通常の場合に比べて精神的苦痛をより感じられる事情が認められる場合には、相場よりも慰謝料を増額して請求することができます。

増額事由

事故態様が悪質

 たとえば、飲酒運転や赤信号無視著しいスピード違反無免許運転センターオーバー、違法薬物の吸引など違法行為を行いながらの運転、適切な薬の服用をせずまたは医師から運転を禁じられているにもかかわらずてんかんの作用により事故を起こした運転の場合など事故態様が極めて悪質である場合には、慰謝料の増額請求が認められる可能性があります(東京地判平成15年7月24日・判時1838号40頁、東京地判平成16年2月25日・自保ジャーナル1556号13頁、大阪地判平成18年2月16日・交民39巻1号205号)。

事故後の対応が不誠実

 たとえば、ひき逃げや放置などの救護義務違反証拠隠滅、被害者に責任転嫁するための虚偽主張や有形力の行使など、加害者の事故後の態度が不誠実極まりない場合には、慰謝料の増額請求が認められる可能性があります(東京地判平成22年5月12日・交民43巻3号568頁、東京地判平成23年9月16日・自保ジャーナル1860号144頁)。

運転動機が不当・違法

 たとえば、犯罪目的、加害車両の性能を見せつけるための虚栄心、パトカーからの追跡を免れようとするなど加害者の運転動機が不当又は違法な場合には、慰謝料の増額請求が認められる可能性があります(横浜地判平成24年5月17日・交民45巻3号642頁)。

被害者の特別の事情

 たとえば、死亡により子どもの成長を見届けられなかった、結婚直後に事故により死亡した場合など被害者に特別の事情がある場合には、慰謝料の増額請求が認められる可能性があります(東京地判平成25年12月17日・交民46巻6号1592頁)。

増額請求が認められた事例

一家の支柱の場合

①無免許飲酒運転であった上、逃走し、約2.9㎞にわたり被害者を引きずって絶命させた事例
 被害者は会社員(男性・30歳)のケースで、本人分3500万円、妻子各250万円の合計4000万円が認められました(大阪地判平成25.3.25・自保ジャーナル1907号57頁)。

②飲酒運転により被害者車両を対向車線に進入させ、事故後も救助活動などを一切せず死亡させた事例
 被害者(男性・54歳)のケースで、本人分2600万円、妻500万円、母500万円の合計3600万円が認められました(東京地判平成16年2月25日・自保ジャーナル1556号13頁)。

③飲酒運転により高度に酩酊し、高速で運転して正面衝突事故により被害者夫婦が同時に死亡させた事例
 被害者は自営業(男性・56歳)、専業主婦(女性・56歳)のケースで、本人分各3200万円、子2人各100万円の合計3500万円が認められました(大阪地判平成22年5月26日・交民43巻2号422頁)。

④パトカーの追跡から逃走中、反対車線を走行して事故を発生させ、救護義務を怠り被害者を死亡させた事例
 被害者は結婚式を挙げたばかりの会社員(男性・33歳)のケースで、本人分3200万円、妻400万円、父母各250万円の合計4100万円が認められました(東京地判平成25年12月17日・交民46巻6号1592頁)。

母親や配偶者の場合

①飲酒運転及び居眠り運転により事故を引き起こし被害者を死亡させた事例
 被害者は主婦兼アルバイト(女性・43歳)のケースで、本人分2700万円、夫200万円、子3人各100万円、合計3200万円が認められました(東京地判平成18年10月26日・交民39巻5号1492頁)。

②高速道路での渋滞停止中に無制動のまま時速82㎞で追突して被害者らを即死させた事例
 被害者は主婦(女性・36歳)と子2人(ともに小学生)のケースで、主婦本人分2800万円、子2人本人分各2500万円、主婦の父母各200万円がみとめられました(横浜地判平成21年2月6日・自保ジャーナル1831号75頁)。

③居眠り運転により路側帯内側を歩行中の被害者に衝突し死亡させた事例
 被害者は小学校教員(女性・50歳)のケースで、本人分2400万円、夫240万円、子2人各120万円、被害者の両親各120万円、頻繁に交流し円満な関係にあった被害者の妹120万円の合計3240万円が認められました(東京地判平成26年11月26日・自保ジャーナル1939号108頁)。

独身の男女の場合

①あおり運転により被害者車両がノーブレーキにより先行車両に衝突して死亡した事例
 被害者は会社員(男性・34歳・独身)のケースで、遺族に3000万円が認められました(大阪地判平成18年8月31日・交民39巻4号1215頁)。

②飲酒運転及び居眠り運転により事故を引き起こし救護措置を怠り被害者を死亡させた事例
 被害者は大学生(女性・19歳)のケースで、本人分2500万円、父母各200万円、兄2人各100万円の合計3100万円が認められました(東京地判平成18年7月28日・交民39巻4号1099頁)。

③飲酒運転及びわき見運転、一時停止違反などを行い逃走し、被害者を死亡させた事例
 被害者はアルバイト(男性・17歳)のケースで、本人分2300万円、父母各300万円、姉2人各100万円の合計3100万円が認められました(名古屋地判平成20年2月20日・自保ジャーナル1735号21頁)。

④酒気帯び運転でパトカーの追跡から逃走するため法定速度を大幅に超えた速度で走行し被害者を死亡させた事例
 被害者は居酒屋勤務(女性・15歳)のケースで、本人分2500万円、両親の離婚後生計を同一にしていた母500万円、父100万円の合計3100万円が認められました(東京地判平成25年9月6日・交民46巻5号1174頁)。

子どもや幼児の場合

①飲酒運転及び居眠り運転により登校中の集団登校の児童らに突っ込み、被害者を死亡させた事例
 被害者は小学生(女児・7歳)のケースで、本人分2300万円、父母各250万円、事故時集団登校し妹の死を目の当たりにした兄2人各150万円の合計3100万円が認められました(盛岡地判二戸市判平成17年3月22日・判タ1216号236頁)。

②てんかん発作による意識喪失下でクレーン車を通学中の歩道上の児童に衝突し、児童6名を死亡させた事例
 被害者は児童6名のケースで、各児童の本人分2600万円、両親各200万円、合計3000万円が認められました(宇都宮地判平成25年4月24日・判時2193号67頁)。

③助手席ドアのガラス部にスモークフイルムを貼り左方視界を悪化させた状態で大型貨物車を走行させ、事故を引き起こし被害者を死亡させた事例
 被害者は中学生(女子・12歳)のケースで、本人分2000万円、父母各400万円、弟200万円の合計3000万円が認められました(千葉地判平成19年10月31日・交民40巻5号1423頁)。

高齢者の場合

①前方注視を怠り、死亡事故を引き起こした後、逃走し証拠隠滅を行った事例
 被害者は年金生活者(男性・69歳)のケースで、本人分2200万円、妻400万円、子3人各100万円の合計2900万円が認められました(名古屋地判平成22年2月5日・交民43巻1号106頁)。

②居眠り運転により歩行中の被害者に衝突し側溝に転落させ、救護義務を怠り死亡させた事例
 被害者は年金生活者(男性・69歳)のケースで、本人分2000万円、前妻との間の子各150万円、再婚した妻400万円、再婚した妻との間の連れ子200万円の合計2900万円が認められました(大阪地判平成25年9月19日・自保ジャーナル1913号80頁)。

③死亡交通事故後、加害者が不起訴処分に影響を与える虚偽の供述などを行ったうえ、責任転嫁の供述などを行い被害者の名誉や遺族の心情を著しく害した事例
 被害者は年金生活者(男性・68歳)のケースで、本人分2150万円、妻400万円、子3人各150万円の合計3000万円が認められました(福岡高判平成27年8月27日・自保ジャーナル1957号56頁)。

まとめ

 このように、事案や被害者の属性、加害者の事故態様により異なりますが、死亡慰謝料の増額事由がある場合には、相場よりも300万円から500万円ほど増額される傾向にあります。

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